MINATOと共にデッドエンドになったDEADEND
by paul stanley
1.総体的に見た特徴。
音源全てに言えるのが、手数の多さ、リズム・キープの正確さを挙げることができる。また、一曲に数々のリズム・パターンを盛り込み、ダイナミックかつ、繊細とほぼドラマーの理想を体現しつつ個性を主張するという離れ業を持つ名手MINATO。
しかも驚くべき事にアンサンブルを壊すことなく楽曲に溶け込み一聴しただけでは、凄いことをやっているようには聞こえないという、まるで裏技の様な、知る人ぞ知る職人芸。まさに天才ドラマーといえる。(一度ドラム以外の全ての音を五感から排除して聴く事をお勧めする。)
ただ、他の凡百のバンドならエゴ丸出しに陥る可能性がある演奏だが、それを許さず、個性のぶつかり合いに昇華し、楽曲を壊さない他メンバーの力量がDEAD'sの凄いところでもある。(但し、「ゼロ」は除く。後述。)
2.アルバム解説。
●「ゴースト・オブ・ロマンス」
一曲目からいきなりタメの効いたフィル・インから怒濤のツー・ビートという展開の「ダンス・マーカブル」で幕を開ける「ゴースト〜」。もうこの一曲でMINATOのテクニシャンぶりが全開で堪能できる。ややもすると単調になりがちなリズムの中、ギター、ヴォーカルの隙間を埋めるべく挿入されるシンコペーションの効いたフィル・インが楽曲にブレーキを掛け、普通のHM/HRになる事を許さない。しかも、平坦な後半のリフレインに裏リズムになり変化を付けている。また、他の曲でも多用するブレイク時に余韻の残らない小シンバル(転回時に多用する特徴)で、曲に余裕を持たせている。
「ザ・ダムド・シング」ではコード・チェンジ毎にバス・ドラをシンクロさせJOEのベースの特徴であるつっこみ気味のリズムに合わせて敲いているが、サビではカッチリとタメのドラミングでメリハリをつけている。興味深いのが「デコイ」でのリズム・キープで、普通ならハットで刻むところをタムのロールで行っている。これは(小規模ながら)「ソフィーナ」のプロト・タイプと受け取ることができる。
また、「デッド・マンズ・ロック」のイントロ(CD0:04)で一瞬だがツー・バスか?と思うほどの驚異的に速いキックを聴かせている。「スケルトン・サーカス」では、RAINBOW在籍時のコージー・パウエルのコピーを聴くことが出きる。(シンコペーションの効いたフィル・インにスナップの効いたシンバル、ントトットシャーン!)
このアルバムではドラムに対してのミックスが非常に良好でハイハットの開閉音まで良く聞こえ、MINATOの繊細さも聞き取ることができる。
●「シャンバラ」
「エンブリオ・バーニング」では、カッチリしたリズムの上で弦楽隊が派手にバッキングをやっているので、割に(MINATOとしては)大人しめのドラミングかと思いきや、ギター・ソロ・パートに突入するやいなやチャイナ・シンバル2連チャン、タムはロールしまくりで、緊張感を維持しそのままの勢いでエンディングに雪崩れ込むという、MINATOなしでは成り立たない曲となっている。
「ナイト・ソング」は、緒突猛進型のHRだが、エンディング間近(CD3:25)から得意のタメたフィル・インで楽曲を盛り上げている。フレーズが全て異なっているところが他のドラマーとは一線を画している。
「サイコマニア」の歌メロでは、弦楽隊の変化が乏しいため、ほとんどドラム・ソロの如く小技を刻み込んでいる。この辺りのセンスの良さが、後の「ゼロ」に活きてくるわけだが・・・。
このアルバムのハイライトは「ブラッド・ミュージック」で、エイト・ビートを刻むのにもハイハットの開閉を多用、16ビートの様なドライヴ感を出し、小シンバルを使ったブレイクに、シンコペーションの効いた多彩なフィル・インと持ち技の全てを聴くことが出きる。
●「ゼロ」
このアルバムをバンド作品として捉えていいものかどうか・・・。MINATOとMorrieプロジェクト作品としてなら文句のつけようがない内容だ。一曲目の「アイ・ウォント・ユァ・ラヴ」からMINATO技が連発連続。ドラムだけで、すでに隙間がない。
「スリープ・イン・ザ・スカイ」に於いても一見大人しそうに聞こえるが16ビートに始まりサビでは8ビートに転換しセンスのいいフィルを入れまくり、「ベイビー・ブルー」では、他の音が鳴ってなかったら、殆どドラム・ソロ。圧巻は「ソフィーナ」で、この曲すべてがタムのロールで成立している。さらにヴォーカルの隙間にはフィルが入る。異論を恐れずにいえば、「ソフィーナ」の一番の歌詞はこのドラムの名手に置いていかれるバンドを歌った曲かと、妙な勘ぐりすら憶える。(無論、考えすぎだ。)
ここまでくればMINATO脱退、バンド解散も当然といえる。あるインタヴューで「DEAD ENDでやることはやり尽くした。」と語っていたが、それも至極もっとも。これ以上進化しようがない。(蛇足だが、「ソフィーナ」の元ネタをJAPANの「ティン・ドラム」に収録の「ジ・アート・オブ・パーティーズ」に見ることができる。)
唯一の救いはこのアルバムのミックスが、中音域をブーストしてあることだ。音の分離が明確でない分、バンドっぽく聞こえる。ドンシャリ型のサウンドだったらMINATOのソロ・アルバムになってた様な気がする。
●「デッド・エンド」ライヴ・アルバム
殆どスタジオ・ライヴ的に淡々と進むなかで、MINATOが「アイ・ウォント・ユァ・ラヴ」で走り気味になっている、貴重な(?)アルバムだ。最もMINATOのドラミングを楽しむのに適した音源である。イコライザーで高音と低音をブーストして聴いて頂くことをお勧めする。いかにMINATOが神経を研ぎ澄ませて、一音一音大切に敲いているか理解できると思う。
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